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東京地方裁判所 平成4年(ワ)23300号 判決 1993年8月30日

主文

1  原告の被告渡部幸弘に対する請求を棄却する。

2  被告目黒正男は、原告に対し、金四七五万〇二八四円及びこれに対する平成四年六月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告目黒照子は、原告に対し、金四七五万〇二八四円及びこれに対する平成四年六月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用中、原告と被告渡部幸弘との間に生じたものは原告の負担とし、原告と被告目黒正男及び同目黒照子との間に生じたものは被告目黒正男及び同目黒照子の負担とする。

5  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

理由

一  請求原因1について

請求原因1の事実は全当事者間に争いがない。

二  請求原因2について

請求原因2の事実は、原告と被告渡部との間においては争いがなく、原告と被告目黒両名の間においては、《証拠略》により、これを認めることができる(ただし、正確には後記三1(六)のとおり)。

三  請求原因3(一)について

1  右一及び二の事実に《証拠略》を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  訴外岩瀬芳松及びその妻である訴外岩瀬節子(以下「節子」という。)は、平成元年一一月ころ、訴外川村住宅社(以下「川村住宅社」という。)の仲介により、訴外三芳住宅株式会社(以下「三芳住宅」という。)から本件建物を本件敷地及び本件私道部分の借地権(賃貸人は訴外岡山土地倉庫株式会社(以下「岡山土地倉庫」という。))とともに金五〇〇〇万円で購入し、節子の姉夫婦である被告目黒両名の名義を借用して本件建物の所有権保存登記を経由した。

節子が右売買に際し入手した川村住宅社作成のチラシには、借地面積について「八三・六〇平方メートル(私道含む)」との記載がされており、また、三芳住宅は、右売買の際、節子夫婦に対し、本件敷地及び本件私道部分の正確な位置関係及び面積を記載した実測求積平面図を交付した。

(二)  節子夫婦は、本件建物購入の約一年後から、本件建物に居住していたが、借財の返済に窮したことから、訴外松下商事株式会社(以下「松下商事」という。)及び川村住宅社の仲介によりこれを被告目黒両名を売主として売却することを決意した。

節子夫婦は、その後、宅地建物取引業者である被告渡部にも仲介を依頼し、一旦はその仲介により隣家(別紙図面<3>)に居住していた訴外北口芳憲(以下「北口」という。)に金五〇〇〇万円で売却する話がまとまりかけたが、北口の資金の都合で流れ、その後、あらためて金四九八〇万円で本件建物を売りに出すこととした。

なお、松下商事及び被告渡部がそれぞれ作成した本件建物に関するチラシには、いずれも借地面積が八三・六〇平方メートルである旨記載され、私道面積欄は空欄であつた。

(三)  原告代表者は、被告渡部から本件建物の紹介を受け、購入の意向を示したが、売買代金額決定の過程において、建ぺい率制限の範囲内で本件敷地に増築する意図を有していたこともあり、被告渡部に対し、本件敷地の面積が真に八三・六〇平方メートルあるのか疑問を呈した。

被告渡部は、原告代表者の疑問を受けて、節子から敷地面積が八三・六〇平方メートルであることについて確認を受け、さらに、その際、節子に本件敷地賃貸借契約書の提示を求めたが、節子がこれを所持していなかつたため、岡山土地倉庫へ赴き、宅地八三・六〇平方メートルが賃貸借対象物件である旨の記載がある賃貸借契約書の写しを入手するとともに、本件敷地面積は八三・六〇平方メートルであるとの回答を得た。

原告代表者は、本件売買契約締結時にも、節子及び被告渡部の面前で、被告目黒照子に対し、本件敷地の面積が八三・六〇平方メートルあることの確認を求めたところ、被告目黒照子は「私道は含まれず正味です。」と回答し、原告代表者が続けて増築が可能かについて質問したところ、被告目黒照子は「十分できます。」と回答した。

(四)  原告及び被告目黒両名は、平成四年六月一六日、代金額を金四九三〇万円として本件売買契約を締結したが、その際作成された「借地権付建物売買契約書」には、本件売買契約の目的物が「本件建物及び借地八三・六〇平方メートル」である旨表示され、特記事項として「地代月額金一万八四〇〇円、私道通行料年額一五〇〇円」旨の記載がされた。

被告渡部は、本件売買契約締結時、原告に対し、本件建物前の私道(別紙図面<1>’ないし<4>’)に関する道路位置指定申請図写しとともに重要事項説明書を交付したが、右重要事項説明書には、借地面積は八三・六〇平方メートルであり、私道通行料が年額金一五〇〇円である旨記載され、さらに建築基準法関係の欄の建ぺい率制限及び容積率制限は本件敷地が八三・六〇平方メートルであることを基礎として算定されていた。

本件売買契約締結時、契約書等に記載された通行料を支払うべき私道について、原告代表者は本件建物前の私道(別紙図面<1>’ないし<4>’)と考え、節子は漠然と本件私道部分付近と考えていたが、実際には、そのいずれでもなく、別紙図面<4>’からさらに公道に通じる私道のことであつた。

(五)  原告代表者、被告渡部、被告目黒照子及び節子は、本件売買契約締結直後、原告と岡山土地倉庫との間の土地賃貸借契約書を作成するため岡山土地倉庫へ赴いたが、その際、岡山土地倉庫の担当者は、私道通行料の対象は本件建物前の私道(別紙図面<1>’ないし<4>’)であり、借地には私道を含まず、本件敷地のみの面積が八三・六〇平方メートルである旨述べた。

(六)  本件敷地は、一筆の土地(江戸川区《番地略》宅地五八三・三四平方メートル)の一部で、その実際の面積は五九・一二平方メートルであり、本件私道部分の面積は二四・四八平方メートルである。

2  ところで、民法五六五条所定のいわゆる数量指示売買とは、当事者において目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積等があることを売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金が定められた売買を指称する(最高裁判所昭和四三年八月二〇日判決民集二二巻八号一六九二頁)ところ、土地の売買において、目的たる土地を登記簿記載の面積をもつて表示したとしても、目的物特定のために面積を表示したにすぎない場合も多いから、これをもつて直ちに売主がその面積のあることを表示したものというべきではないことは勿論であるが、他方、必ずしも一平方メートル当たり何円という代金算定方法をとつていない場合でも、売主が一定の面積があることを保証しこれが代金算定の重要な要素となつているときには、数量指示売買に該当するものと解される。

3  これを本件についてみるに、前1に認定の事実によれば、<1> 本件敷地は登記簿上一筆の土地の一部であり、面積が八三・六〇平方メートルである旨の表示には本件敷地を特定する機能はないこと、<2> 被告目黒照子及び節子の行為は売主側の行為として被告目黒両名の行為であると評すべきであるところ、被告目黒照子及び節子は、売買代金額決定の過程において、原告からの本件敷地の面積についての問合せに対し、八三・六〇平方メートルである旨回答していること、<3> 原告は、増築の関係で本件敷地の面積を重視しており、このことが売主側である被告目黒照子及び節子にも伝わつていることの諸点が明らかであり、右諸点に照らせば、本件売買契約においては、売主たる被告目黒両名が本件敷地について一定の面積があることを保証し、これが代金算定の重要な要素となつているというべきであるから、本件売買契約は数量指示売買に該当するものと解される。

そして、前1に認定の事実によれば被告目黒両名の抗弁に理由がないことは明らかであり、また、原告が、被告目黒両名に対し、本訴状をもつて代金減額の意思表示をした事実は当裁判所に顕著であるから、本件売買契約における代金は借地権の対象たる本件敷地の面積として不足した二四・四八平方メートルに相当する分について減額されるべきである。

なお、仮に、原告が、本件売買契約により、本件建物及び本件敷地借地権の従たる権利として本件私道部分の借地権を取得していた(民法八七条二項)としても、前1(四)に認定の事実によれば、原告と被告目黒両名との間で本件売買契約の対象として合意された借地はあくまでも本件敷地のみであり、これを基礎として代金が定められたというべきであるから、本件私道部分の借地権の取得をもつて数量に不足がないとすることは勿論、本件私道部分の借地権の価値を減額されるべき代金額算定の際に考慮することも相当でない。

4  そこで、具体的に減額されるべき代金の額について判断するに、甲第四号証(本件建物の平成四年度の固定資産税評価証明書。右評価額は金四三九万七六〇〇円と認められる。)及び《証拠略》によれば、本件売買契約締結当時の本件建物の時価は高々金一五〇〇万円と認められるから、本件敷地借地権価格は少なくとも本件売買契約における代金四九三〇万円から右金一五〇〇万円を控除した金三四三〇万円と評価されているというべきである。

なお、右金三四三〇万円を一平方メートル当たり単価に換算すると金四一万〇二八七円になるが、右借地権単価は、《証拠略》により認められる本件敷地付近の土地の平成四年度の路線価一平方メートル当たり単価金五九万円及び借地権割合七〇パーセントや原告代表者本人尋問の結果により認められる訴外同栄信用金庫が調査により得られた本件敷地付近の土地所有権の坪当たり単価金二〇〇万円(一平方メートル当たり単価金六〇万六〇六一円)に照らしても相当なものと認められる。

したがつて、減額されるべき代金額(被告目黒両名合計分)は、右金三四三〇万円に八三・六〇分の二四・四八を乗じて得られる金一〇〇四万三八二八円となるが、原告の減額請求額金九五〇万〇五六八円はこれに満たないので、その限度で本件売買契約における代金額は減額されたこととなる。

もつとも、《証拠略》によれば、別紙図面<1>に存する本件建物と同程度の借地権(私道として別紙図面<1>’が付属)付き建物が節子夫婦が本件建物に入居する前に金五五〇〇万円で売買された事実、その後、別紙図面<2>に存する本件建物と同程度の借地権(私道として別紙図面<2>’が付属)付き建物が金五八〇〇万円で売りに出された(ただし、平成五年七月における売出価格は金五五九五万円に値下がりしている。)事実が認められ、本件売買契約における代金が右認定に係る近隣物件の価格並びに前認定に係る節子の本件建物購入価格金五〇〇〇万円及び北口と概ね合意に至つていた価格金五〇〇〇万円に比して必ずしも高額とはいえないことが窺えないではない。

しかしながら、被告目黒両名の関係では、本件売買契約が数量指示売買に該当する以上、周辺土地の取引価格如何にかかわらず、借地権の価格を面積比で按分して得られた額が減額されるべきである。

5  よつて、被告目黒両名は、原告に対し、減額に係る代金の返還債務として、いずれも金四七五万〇二八四円(金九五〇万〇五六八円の二分の一)及びこれに対する代金受領の日の翌日である平成四年六月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金(民法五六五条所定の代金減額請求は実質的には契約の一部解除であるから、返還すべき代金に係る遅延損害金の起算日は民法五四五条二項による。)を支払う義務がある。

四  請求原因4について

前三1に認定のとおり、被告渡部は、宅地建物取引業者として本件売買契約の仲介をした際に、原告に対し、本件敷地の面積について誤つた説明をしている。

しかしながら、前三1に認定の事実によれば、原告が面積不足について知ることなく本件売買契約を締結するに至つたのは、究極的には、売主側である被告目黒照子及び節子が、自らが三芳住宅から本件建物を借地権付きで購入した際に本件私道部分について記載された書面等を受領しているにもかかわらず、これを確認することなく、面積について安易に保証したことに専ら起因するというべきところ、被告渡部は、面積について、売主側である節子及び本件敷地の賃貸人である岡山土地倉庫担当者に直接問い合わせたり、賃貸借契約書を確認したりした上で説明したものであるから、被告渡部が誤つた説明をしたことに不法行為を構成するほどの過失があるということは困難である。

五  結論

以上によれば、原告の被告渡部に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却し、原告の被告目黒両名に対する本訴請求は、減額に係る代金返還請求に理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条及び九三条、仮執行宣言について同法一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 畑 一郎)

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